【涙活】3分で泣ける実話ショートストーリー「さよならゴハン」
ーー#20年前 #彼ごはん #料理上手 (DOKUJO文庫編集部)
3分で泣ける実話ショートストーリー「さよならゴハン」
その連載記事に惹かれたのは、タイトルからだ。
「彼ごはん」
全くもってズバリの、彼氏に作る料理レシピだ。
男女共同参画が大前提の常識となった現在、こういうタイトルにカチンと来る人もいるはずだろう。
でも、私は週一で載るこの記事を楽しみにしていて、切り抜いてスクラップにまでした。
残念ながら私は、現在恋人はおらず、実家で六人家族の炊事を担当している。
「彼ごはん」は家族のために作っても良さそうなレシピではあるが、
作りたくないワケが私にはあった。
私に初めて、正真正銘の恋人ができたのはもう二十年も前。
生来の病の為に発育が遅く、
同級生の背中を追っていくだけで精一杯の子ども時代を過ごした。
また思春期にはいじわるな言葉を浴びたことは、今も記憶に残る。
自分は早く死ぬのだからとフツウの夢さえ抱かずにいた高校・短大時代を経て、
その「春」を迎えた時の私の震える程の嬉しさを想像してもらえたらと思う。
「君は、何もねだったりしないんだな」
と、物足りないような顔をした彼に言われたことがあった。
が、それは遠慮でもなく、私は本当に満ち足りていたのだ。
彼と同じ時間を共に過ごせるだけで。
彼が「お代わりっ」と私が作ったゴハンを平らげてくれること。
それ以上に望むことなど、なんにもなかった。
でも、二年後の定期健診で私は病の進行を告げられた。
丁度、彼が他県へ転勤になった事と重なり、私はある決意をして彼の下宿先を訪ねた。
「ここでの生活に落ち着いたら結婚しよう」
彼の言葉に私は絶句した。
息を詰めてうつむく私を、きっと彼は驚きと嬉しさで言葉が出ないと思ったのだろう。
優しく抱きしめ、私の名を幾度も呼んだ。
翌日、彼が帰宅するまでに、私は彼の好物を作り続けた。
ゼロニンジンカレー、野菜コロッケ、ちくわのニンジン揚げ、厚揚げ煮。
そして、キッチンを片付け、タッパーに料理を詰め、
テーブルへ、まるで行楽弁当のように包み置いてその上へ手紙をのせた。
綿々と決意のいきさつを綴り、最後のおねだりと、こう綴ったことを覚えている。
「ありったけの愛を込めて作った、私の最後のゴハンを食べて、あなたは新しく生きてください」
二十年も経った今でも苦しくなる。
実家で母や姉一家の為に台所に立つ度に、彼のため小さなキッチンに立った時の事を思い出し、哀しくもキュンとする。
「彼ごはん」には、あの人の好みそうな物がいっぱいある。
あれから、彼ごはんは一度も作っていない。
でも、いつか、まぐれと奇跡が重なって、「彼ごはん」を作る日が訪れたなら。
そんな望みが微塵も無くなるまでは、愚かでも命在る支えとさせて欲しい。
あの人は今、何を食べているだろう。
「アイツの方が美味かったな」と思ってたら、なんて。
作:鈴木みのり(協力:あのころの味エッセイ大賞)
DOKUJO文庫編集部では、あなたの作品を募集しております。
info@sucmidia.co.jp宛にご応募ください。
採用された作品はDOKUJO文庫にて発表させていただきます。