第16話「恋のフーリエ変換」・後編~連載・恥の多い恋愛を送ってきました
……前編よりの続きである。
■3.個人の『人生』としてのキャリア【長期展望】
実際に社会という大海の中で生活し続けると、
己の限界も本当の理想も夢も、少しずつ見極めることとなる。
ある時、友人がこのような相談を持ちかけてきた。
彼女は大変優秀なうえに、経歴もキャラクターもキャリアを伸ばしていくには全く申し分ない。
当然会社でも評価が高く、出世コースに乗りかけているようなのだが
何故か当の本人はそこに迷いを抱き始めたそうなのである。
『何が不満なのか?キャリア的にもこんないい話はないのでは?』
と私は問うと彼女はこう答えた。
『その通りです。
会社としては女の管理職出したいそうで、
そのレールにいつのまにやら乗ってるようなんです。
ただし出世のためには全国転勤繰り返さなきゃいけないそうなんですよ。
でも、冷静に考えたらそれじゃ家庭持てないじゃん、と。
で、ブルーになって人事に相談してみたら
『君についてきてくれる優しい人と結婚するといい』
とか言うんですけどね、
せっかく勉強していい大学行って、いい会社入って、
かつ見た目もキレイにしてるのに
なんで私がそんなニートみたいな男と結婚しなきゃいけないんですか。』
……そりゃそうだ。
そもそも、キャリアをバリバリ伸ばして、
素直で優しい人が一緒についてきて支えてくれる…って、
それは『男が考える男の幸せ』なのではないだろうか。
自身に付随する様々なものや周囲の声で、
それが本当の幸せなハズだと信じてしまいがちだが、
実は本当の自分の考えを歪めてしまっているのではないだろうか。
彼女は続ける。
『だいいち、一生かけて付き合うんだったら、
こっちだって尽くしたいって思えるような、
経歴も社会的地位も収入も身長も、
全部自分より上の男がいいんですよ。
私にコンプレックスなんか抱かないくらいのモノを持っていて、
尽くしたいって思えるだけのものを感じさせる、ね。』
『外野はね、留学しろやら、もったいないとか色々言うんですけども
そんなことは私が一番わかってることなんだし
もったいないとも思っていますよ。
・・・でも同時に自分の限界も、自分の全体の中での位置も
なーんとなくわかってる。
理想も、限界も、現実も全部わかってて納得して今の状態にあるんです。
だから外野がこうあるべきとかツベコベと口出さないで欲しいんです。』
実際に社会に出て、生活でも恋愛でも現実を知って
いつの間にか私達はその先に求めるものは何なのか、
自分の中で答えを見出せていた。
自分の幸せとは何だろうと本心で考えたら
一生かけて付き合いたいと思える、尊敬できる人が
私達の人生にはおそらく必須なのだろう。
『んで、私降りたんです。
その示されたキャリアに乗っちゃうと、
きっと何年か後に後悔するのが自分でわかったから。
『優秀でその経歴で、キャリアを上り詰めていかないなんてもったいない』
とか人事は言うんですけどね、
でも、こんなに優秀で美しい私が子孫を残さない方が断然もったいなくないですか??
どんなに頑張っても、どんなに社会的地位が上がっても、
どんなに多くのものを手に入れても
私1人がこの世に成し遂げられることなんて
何人もの自分の子供の成し遂げることに比べたら
高が知れてると思うんです。
私が目指すのは
『社会においてのキャリアアップ』なんて小さいものじゃない、
それを包括する
『人生においてのキャリアアップ』なんですよ。』
私はふと自分のことを考えた。
きっと私は1人で生きていってもずっと楽しくやっていける自信がある。
おそらく生活するのにも困らないし、
友人達と有意義に毎日を過ごせるだろう。
だが、私はもっと未来に可能性が欲しい。
限界が見えている自分のものだけではない、新しい幾つもの可能性が。
私達は欲張りなのだろうか?
彼女は最後にこうつぶやいた。
『可能性を複数求めるなら
何かを妥協しなきゃいけないってことなんて
実は最初からわかりきっていたことなんですよ。
だから、少々キャリアを妥協しなきゃいけなくても、
『この人との子を産む方が人生のキャリアにとっては重要だ』
と、本気で思えるような相手じゃなきゃ嫌なんですよ。
…この私が心底惚れ込めるような男でなきゃ、ね。』
『キャリア』は自身が社会で生きていくためには大切なことである。
しかし、その『キャリア』も所詮は『人生』に包括される、
一部の重要な事象の1つではないだろうか。
(もちろん、人生全体に影響を大きく与える重要なものではあるが)
社会に飛び出さんとする時期やその直後は、
自身の社会においての可能性が未知である故
自身の可能性を最大限広げることこそが最も利益のあることだと感じる。
そのため、目の前の恋愛であるとか、
キャリアとかにがむしゃらになるのだろう。
だがこうして社会の中での時間が経って
自身の限界と可能性、そして確固たる信条を見出してしまうことで、
『人生』という、全てを包括したもので
その可能性を再考するようになってしまった。
そして自身の可能性がたとえ大きくとも無限ではないということ、
だが、より多くの可能性を未来に求めたいという想い、
そういったものが自身の中で明らかになって来るため
私達は自分の人生に自身だけではない、
第三者の存在を強く必要とするのではないだろうか?
そう、
『恋愛』だけではなく、
『人生をも共にする恋愛』を。
『異性』ではなく
『心から尊敬できる相手』を。
そしてそれこそが『結婚』を現実的に意識させるものなのだろう。
女は社会に出ると、現実的になってしまうと嘆く方も多いかもしれない。
だが、それは人生をより良いものにするために必死に
自分なりの最適解を探そうとしている結果なのである。
だから男性陣よ、ただ女は変わってしまったと嘆くことなく
男たるもの、
身も心も立てたいと女に思わせるだけの男であってほしいものである。
(了)