寝ている間、彼氏が勝手に私のスマホを見た!これって法的に有罪?
彼氏の束縛に悩んでいるというAさんから、以下の相談をいただきました。
「彼は、私の携帯を勝手にチェックする悪い癖があって。この前も、私が寝ている間に、メールや着信履歴を盗み見て、私になりすまして男友だちにメールまで送っていたんです。ここまでいくとさすがに行き過ぎている気がして、苛立ちと不信感で大ゲンカをしてしまいました。
その時、ふと“彼に何かの罰を与えたい!”と思ったのですが、法律の力を借りて、彼に迷惑な行為をやめさせることはできないのでしょうか」
恋人同士であればよくありそうなこの話。勝手にスマホをみる恋人を罪に問うことはできるのか?弁護士の島田先生に聞いてみました。
これって民事事件と刑事事件、どっち?
「日本での法律や裁判は民事と刑事に分かれています。民事事件というのは、『物を返せ』『慰謝料を払え』『嫌がらせを止めろ』など、個人間で、あるいは個人から国に対して請求するものです。刑事事件というのは、法律に定められた罪を犯した個人や法人を国が罰する(懲役や罰金など)ものです。
たとえば、泥棒があなたの物を盗んだとして、あなたから泥棒に対して『盗んだ物を返して』と請求するのは民事裁判です。窃盗罪で有罪にし、懲役刑にするというのが刑事裁判です」
無断でメールや着信履歴を見るのは有罪?
「刑事の観点でみると、彼があなたの携帯に保存されているメールや、着信履歴を見ること、スマホの内容を見たりすることも同様ですが、プライバシー侵害自体を罰する犯罪がない以上、彼が有罪になることはありません。
民事の観点で彼の行動をみるのであれば、法律上、『プライバシー侵害に当たるか』の判断が必要です。簡単にいうと、
(1)普通に考えて他人に知られたくない私事に関することであり
(2)いまだ他人に知られていないことを
(3)合理的理由なく流出・漏えいさせた
という内容を満たすかによります。これらの内容を満たした場合には、原則として民法709条の不法行為が成立しプライバシー侵害となります。
彼氏の問題行為は、先ほどの(1)~(3)の内容にあてはめると、携帯内部のメールのやりとりは私事ですし、いまだ他人には知られていないこと。また、あなたの携帯を勝手に見てそれを友人などに話していた場合は、これはプライバシー侵害=不法行為にあたるとして、彼氏に対し、慰謝料を請求することは可能です。ただ、プライバシー侵害を理由とする慰謝料の金額は裁判上数万円程度(多くても30万円程度)に落ち着くことも多いです」
携帯の持ち主になりすまして、勝手にメールを送るのは?
「この場合も、現行刑法上、本件の場合に罪に問える規定はありません。刑法の条文には、私文書偽造等(刑法159条)という犯罪が規定されています。他人になりすましてメールを送ることは、文書偽造だ!と思われるかもしれませんが、まず、電子メールは、私文書偽造罪(刑法159条1項)や同行使罪(刑法161条2項)にいう『文書』にはあたらないので、私文書偽造罪は成立しません。
私文書偽造とは、偽造や変造の対象となる文書を『権利・義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画』と限定して規定しています。例えば、私人間の契約書、銀行預金通帳などがこれに当たります。こういった社会的に重要な文書を対象として偽造や変造を行うことを罰するものです。
電子メールは、電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2第1項)にいう『電磁的記録』にあたりますが、これは「権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録」に制限されています。例えば銀行預金残高記録、自動改札定期券の残高記録、キャッシュカードの磁気ストライプ部分の記録などが当たります。個人間の他愛もないメールは該当しないので、結局、電磁的記録不正作出罪も成立しません」
罪にあたらないとはいえ、勝手に相手の携帯を見たり、なりすましてメールを送ったりすることは、相手との信頼関係を破壊する行為でもあります。
どんなに仲の良いカップルでも、相手に知られたくない秘密はあるのは当然ですよね。もし彼がしつこくあなたの携帯をのぞき見してくる場合には、一度きちんとむきあって話し合いをしてみることが大切ですね。
【島田さくら・プロフィール】
弁護士法人アディーレ法律事務所 所属弁護士(東京弁護士会所属)。自身の過去のオトコ運の無さからくる経験(元彼からのDVや、妊娠が発覚した翌日にカレから別れを告げられたこと)をもとに悩める女性の強い味方として男女トラブル、さらには労働問題などを得意分野として多く扱う。シングルマザー弁護士として、相談者の悩みを解決するかたわら、家庭では子育てに奮闘している。弁護士が教える パーフェクト離婚ガイド、アディーレ法律事務所H
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