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独身女子には刺激が強い?ファミリー王国・たまプラーザ見聞録【東のEditor’sEYE】

東急田園都市線に「たまプラーザ」という駅がある。私が小学校まで住んでいた生まれ故郷だ。

ある日の日曜日、仕事で久しぶりにたまプラーザ駅を降りた。当時の景色とはガラリと変わり、駅に大きなショッピングモールができていた。

唯一変わらない、背の低い東急を見たときはほっとしたが、しばらく来ない間にこんなに変わってしまうとは・・・。少し残念な気分でモールに入ると、更にぽかんとしてしまう景色が広がっていた。

辿り着いたは、ファミリーの国・たまプラーザ

日曜日のたまプラーザは、とにかくファミリー客が多い。ファミリーに人気だということはよく耳にするが、予想以上の多さだ。正直ひるんだ。

もちろん渋谷や新宿でも家族連れはよく目にする。しかし、その数が尋常でない。すべての客が子供連れと言ってもいいほどで、とにかく、目に見える人すべてが家族連れなのである。

モール内を進んでいくと、小さな芝生の広場があった。天気のよい日曜の午後、芝生は子どもたちでごったがえしていた。ざっと50人くらいはいただろうか。自分の膝くらいの背丈の子ども達が所狭しと駆け回る。

その芝生を駆けるのは子どもだけではない。カラフルな服をまとったイクメンが追いかけ、帽子をかぶった自分と同年代のママたちが微笑ましそうに目で追っている。みんな雑誌から飛び出したような、オシャレなキッズ、イクメン、ママなのだ。

どこもかしこも、見渡せばファミリーのみ。こんな世界があるのか・・・と、衝撃だった。普段、ファミリーとは縁のない街で活動している私。目の前にいる人種が違いすぎる。その光景に私はめまいを覚えた。マルコ・ポーロは「黄金の国ジパング」を見つけたとき、どんな気持ちだったのだろう。

ファミリー王国に迷い込んだ女子

まるで白のペンキに黒を一滴たらしたよう。私は異国人さながら、スーツとまでいかないが、ピンヒールにビジネス仕様の服を着ており、とても目立っているように感じた。口をぽかんと開けて10秒ほど立ち尽くしてしまった。ここにいるママたちが朝のオフィス街に迷い込んだら、こんな風になるのだろうか。

私の中には、適齢期で結婚をしてないことへの焦り、家族を手に入れている女性たちへの嫉妬、間違った道を歩んでいるのかもしれないという不安・・・いろんな感情がわきあがった。「早く子どもを産みなさい」と本能が警鐘を鳴らしているのかもしれない。

ふと見渡すと、少し空気の違うファミリーもいた。子どもを激しく叱りつけるママ、泣き出す子ども、傍には退屈そうにタバコをふかすパパ。

光の中に小さな影を見たような気分になった。とにもかくにも、ファミリーだらけだ。

「あの日あの時素直に結婚していたら・・・」の私があの中にいる?

この拒絶反応ともいえる立ちくらみは、もう1人の自分を見ているから、なのかもしれない。

「あの日あの時、あの人の愛を素直に受け入れていれば、今ごろ専業主婦をやっている」と、女子なら一度は思ったことがあるはず。あの日、別れを選ばなければ子どもを産んで、こうして日の当たる公園で遊んでいる。あの時、別の道を選んだ私がこの中にいるのか・・・?

今いる世界と平行に存在するといわれる「パラレルワールド」。この体験をしたくなったら、週末のたまプラーザへ! なんて、のんきな観光案内をしている場合ではない。ここに住んでいた小学生の頃、まさか大人になって故郷に対しこんな感情をいだくとは、まったく想像し得なかった。

昔の懐かしさをゆったり満喫する予定だったが、私はあまりの居心地の悪さに足早に逃げてしまった。生物は、体内に異物が入ると吐き出す反応をするというが、ファミリー王国・たまプラーザは、異物の私をはじき出したのか。私がこの国に馴染むのはまだまだ先のようである。

そして、自分のホームへ帰国・・・!

こうして疲労を肩に背負い、たった30分の異国訪問は終わった。翌日、朝から地方出張に出かけた。東京駅の新幹線のりばには、足早にキャリーバッグを引くサラリーマンや、ビシッとスーツを着込んだ女性たちでごった返す。ヒールでカツカツ歩く女性たちに、握手を求めたい気分である。

こうして同じ時の流れを持つ者たちで感じる、謎の居心地の良さは一体何だろう。この国の雰囲気はとても好き。やっぱりここが私の生きる国のようだ。いつまでもここにいてはいけないと、分かっているんだけどネ。

東 香名子

コラムニスト。東京独女スタイル編集長を歴任。1983年生まれ。独身女性の視点から、恋やライフスタイルを分析したジャーナリスティックなコラムを得意とする。雑誌「デートスペシャルなび」で連載中。テレビ、雑誌、ラジオ等各方面で活躍中。電子書籍「モテる!ソーシャル恋愛術」「ここで差がつく街コンテクニック」等。趣味は鉄道。

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