【毒舌独女】二つの「ジャパン」
7月18日、日本を揺るがす出来事があった。
女子サッカー・なでしこジャパンが、ドイツで行われた、第6回FIFAワールドカップで優勝したのだ。
決勝戦、FIFAランキング1位のアメリカと対戦し、引き分け。
PK戦により、粘りの優勝。
選手の殆どがアマチュア契約、つまりは二足の草鞋でプレイをしたにも関わらず、素晴らしい成績。
今大会MVPと得点王に輝いた、キャプテンの澤選手でさえ、年棒360万円程度らしい。 普通の公務員と同じぐらいの年収。
中には、フリーターをしながら練習に励んでいた選手も居るという。
しかも、日本サッカー協会からの補助金はわずか。
ワールドカップ出場なのに、ドイツ往復エコノミークラス。
凱旋帰国の際も、ビジネスクラスで帰ってこられたのは、たったの5名。
そんなジリ貧の中、勝ち取ったトロフィーは、どんな物にも替え難い、大切な宝物。
これは選手だけでない。
夢を追いながら、あくせくもがいている人々の希望となった。
「今は例え二足の草鞋を履こうとも、志高く、精一杯の努力をすれば、望みはきっと叶う」
選手たちの頑張りに、こんな勇気をもらった人もいるのでは。
久々に、体の底からパワーが沸いてくるニュースだ。
さて、もう一つの「ジャパン」。
もう一つの「ジャパン」とは、ロックバンド・X-JAPAN。
なでしこジャパンが優勝した同じ日、元メンバーのTaijiが客死したと報道された。
サイパンへ向かう機内で暴れたと逮捕され、拘留されているアメリカ自治領サイパンの留置所で首吊り自殺を図り、帰らぬ人となった。
私よりちょっと年上の人なら、Taijiの活躍は記憶に残っている筈。
全盛期のXを支えた、ワイルドでセクシーなベーシスト。
特にファンでなくても、「アノ人だよ」と言われれば、「あー」となる人物。
何も、アノ頃を懐かしむ為に、彼の死を出したのでは無い。
同じ日に、同じ「ジャパン」と付くグループの陰と陽のニュースが飛び込んできたのが、何とも因果な気がしてならないのだ。
東日本大震災後、自殺者の数は下降傾向にあったのだが、4月から6月にかけては急増している。
震災に直接関係したものから、精神的不安定な人が「何となく」不安を感じ、自ら命を絶つケースまで様々。
また、有名人が自殺をすると、「アノ人もしているのだから、自分も良いだろう」と自殺者が増える。
最近では、貧乏タレント・上原美優の自殺後、自殺者が急増したというデータがある。
先行きの判らない昨今、もっと先行きの判らない「死後の世界」に逃避したくなる気持ちは理解出来なくもない。
Taijiもそうだったのか、今となっては判らない。
ただ、逮捕・拘留というストレスは、想像している以上に強烈なストレス。
しかも、外国で。
大きなストレスにより、目の前が見えなくなってしまい、突発的に自殺をしたのではないだろうか。
この「突発的自殺」が、問題。
ストレスフルな現代、既に一杯一杯になっている人に、もう少しのストレスを加えるだけで、コップの水は溢れてしまう。
コップにギリギリしか水が入っていない人が、見えないだけで、沢山いるだろう。
その一方、日本の復興に尽力している人も沢山いる。
なでしこジャパンは、今やその代表格である。
「がんばろう、ニッポン!」と優勝を勝ち取ったなでしこジャパンと、X-JAPANの元メンバーの自殺は、現代日本の縮図のように感じた。
頑張っている人がいる反面、ストレスに押し潰される人もいる。
7月18日は、何とも奇妙な気持ちになった日だった。
最後になったが、なでしこジャパン、本当におめでとう。
Taiji、自殺すんなよ。ご冥福を祈ってやる。
コラムニスト/コンテンツライター
広島県安芸郡出身、大阪府高槻市在住。恋愛記事から豆知識、果てはビジネス文書まで幅広く執筆するライター。古典芸能に携わっていた経験もあり、日本文化について少し詳しい。文芸春秋『週刊文春』に載せてもらえたのが人生の自慢。
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