【毒舌独女】ひんむかれた海老蔵の身の振り方
一つ、人の世の生き血をすすり
二つ、不埒な悪行三昧
三つ、醜い浮世の鬼を退治てくれよう!
てえぇい! バサッ バサバサバサ
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なんちゃって。
こんな口上を述べながら、斬っていきたいもんだ。
これは、ドラマ『桃太郎侍』の口上。
昨年末からの市川海老蔵騒動を見ている間、ずっと頭の中を駆け巡っていた。
双方言い分があるだろうに、何故か、悪人の申し開きばかりを報道していたから。
悪を成敗!とばかりに、悪人が海老蔵の所業を述べる。
おかしいね。
海老蔵をボコった元暴走族というのは、愚連隊・関東連合に入っている、現役のワル。
生き血をすすっているのも、悪行三昧なのも、関東連合。海老蔵では無い。
彼らが証言した、海老蔵がしたとされる灰皿テキーラやチョーパン(頭突き)は、実の所、暴走族がよくやる手口。
特に、灰皿何々と呼ばれるモノは、暴走族の中で度胸試しの要素がある。
なので、一般人の海老蔵がするとは思えない。
報道する側も、それは知っている筈。
なのに、海老蔵が加害者のように報道をし続けた。
これじゃあ、無念の内に命を落とした、市川海老蔵は浮かばれない。
あ、まだ生きてるか。
俳優生命は終わったも等しいけど。
舞台は中止、CMは打ち切り、どこに行っても悪意むき出しの報道陣。
今までの悪行を色んな人にバラされて、ファンも徐々に離れていった。
気の毒だねぇ。
ああ、お気の毒。
いやあ、あれ程、業界内で嫌われている人も珍しいよ。
無茶苦茶嫌われているのに、仕事が途切れない人も珍しい。
偉い人には、ちゃんとゴマをすれるだけの賢さはあるらしい。
業界の片隅に居る私の耳にも、彼の蛮行は届いていた。
酒癖の悪さは勿論の事、楽屋での態度の悪さ、共演者への配慮の無さも聞いている。
同じコトを、講談師や落語家がしたら、即破門。
師匠がいる全ての芸人、役者でも同じだろう。
でも、成田屋のお坊ちゃまなので、オールオッケー。
うらやましい。私も、もっと無茶がしたいよ。
が、彼と同じ境遇にはなりたくない。
未来の團十郎、成田屋の看板を背負っていく御仁、そんなプレッシャーはかけられたくない。
プレッシャーといっても、「がんばれ!」レベルのプレッシャーでは無い。
日本歌舞伎界を牽引せねばならない、使命を負わされている。
そのプレッシャーに打ち勝つだけのメンタルトレーニングは受けていなかった模様。
結果が、酒乱や人間国宝発言。
バカだね。
心の底から可哀想になるバカだ。
サラブレッドと持て囃されたとしても、謙虚で強い心を持ってこそ、血統は光り輝く。
また、光り輝かせてくれるのは、自分一人の力だけでは無い。
歌舞伎は講談と並ぶ、400年以上の歴史を持つ、数少ない現役の芸能だ。
沢山の人に支えられ、生き残ってきた。
支えられると、もたれ掛かるは別モノ。
いくら力持ちでも、常にもたれ掛かられていては、いつかは潰れてしまう。
過去から現在まで、多くの人と支え合ってきたからこそ、歌舞伎という芸能は存在している。
今、市川海老蔵と名乗れるのは、誰のお陰なのか、考えたことはあるのだろうか。
本物の人間国宝、尾上菊五郎師は海老蔵騒動のインタビューの際、以下のように述べた。
「歌舞伎役者の名前は自分のものではない。ご先祖さまから受け継いでいるもの。役者は芸にしっかり精進するだけだ」(2010年12月13日インタビュー)
海老蔵は、伝統芸能に携わる者として、大きな罪を犯した。
灰皿テキーラやチョーパンどころでは無い。
ご先祖様、先人の墓標に泥を塗ってしまった。
この泥を拭えるのは、彼自身。
そして、彼の心に巣食う醜い鬼を退治出来るのも、彼自身。
退治が叶わないのであれば、二度と、伝統芸能、歌舞伎の世界に戻るなかれ。
コラムニスト/コンテンツライター
広島県安芸郡出身、大阪府高槻市在住。恋愛記事から豆知識、果てはビジネス文書まで幅広く執筆するライター。古典芸能に携わっていた経験もあり、日本文化について少し詳しい。文芸春秋『週刊文春』に載せてもらえたのが人生の自慢。
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